日本でイギリス人ってどんな人みたいな質問を受けることがある。私は実のところ別段特別な人達だと思ったことがないから、期待に添えない答えをすることになるのだが、どこの国の人にでも外から見ると必ずある、という程度の奇妙さはあるので一例をここに記そうと思う。そこで、アンティークと言って何をイメージするか。これが多分他の国の人の感覚とはだいぶズレているだろうという話をしたい。

イギリスのテレビにもいわゆる長寿番組というのがあるのだが、欠かせないのが園芸ものとアンティークもので、長年日本ではドラマやバラエティなどが占めるであろういわゆるゴールデンタイムにのさばっている。Antiques Roadshowは日曜8時からなんと1時間、一体いつからやっているんだろうというくらい長きにわたって続いている。

これはお涙頂戴的な要素を含んだ視聴者参加もので、テレビクルーがある特定の場所にやってきて(ロードショー)そこに参加者が家の片隅に埋もれていた家族のお宝的な品を持ってきて鑑定してもらうという代物である。鑑定もさることながらたいていそこで、その品にまつわる今はなき家族の思い出話を語るというのが番組のキモになっている。こんな番組がよくここまで続くものだと思うけれど、最近はRepair Shopという続編かと見紛う「壊れた思い出の品を直してもらう」番組が今度は水曜の8時から1時間を占めるようになって、モノにまつわる家族の思い出というのはよほど鉄板なのだろうと感じさせる。

話を戻してアンティーク。ここで奇妙だといいたいのは、アンティークと称して人が何を売り買いしているかである。「ロードショー」ではオルゴールに4万ポンド(800万円ほど)の値がついたこともあるし、他にも灰皿とか、洗面台とか、昔のものなら何でもいいの?と思わせる品物が登場する。そもそも蚤の市にでも出したら、誰も一顧だにしないであろう代物ばかりなので、そういう意味でアンティーク市場というのは特殊なものなのだろう。

値段はともかくとして「古けりゃなんでも」説を裏付けるのが、もう一つのアンティークもの長寿番組、昼に毎日(!)放映されているBargain Huntである。こちらは純粋娯楽系で、青組と赤組のペアそれぞれがアンティークの市で掘り出し物を探し、それをオークションにかけてそれぞれの「あがり」を競う番組だ。300ポンドの軍資金が与えられて、その予算で買ったものを競売にかける。それぞれのペアには「エキスパート」一人ずつがアドバイス役で参加して、一品購入して提供する。こうしてそろった購入品をさらに別のエキスパートがしたり顔でせり値を推測。しかるのちに各品物がオークションにかけられて、競り落とされるまでの値動きで一喜一憂する様子が映し出されるというものだが、何より、ここで競売される品々のガラクタ感たるやAntiques Roadshowの比ではないのである。昔の信号機やら戦時中のラッパやら、果てはビクトリア時代のトイレットペーパーホルダーまで、オークションにかける事自体憚られそうな品々が何の忖度なくそこそこの値段で取引されてゆく。

感化されたのか、実は私も結構気に入っていて、それなりに各チームに思い入れながら見入ってしまう。ひょっとしたらこれがイギリス人なのかもしれないと思う。奇妙なものを奇妙と半分知りながら「文化」にしてしまう。

ちなみにアンティーク番組はこれだけではない、というよりはもはや番組の一ジャンルとして確立されている。Flog It Fake or Fortune, Cash in the Atticなど。よほど暇な御仁はYouTubeで探してください。

キーワード:イギリス 海外テレビ アンティーク

2件のフィードバック

  1. 日本にも家にいらないものはありあまってると思うんですけどね。ロードショーに日本行ってもらえませんかね。

  2. Antiques Roadshowよりもドラマチックな要素が少ないと思うBargain Huntは、なぜかわが家で大人気です。日本にも、もっと気軽な蚤の市やチャリティショップが増えるといいな。

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2件のフィードバック

  1. 学生の頃「アンティーク・ロードショー」を数回見たっきりでしたが、今ではこんなにアンティーク関連番組があるんですね!
    びっくりです。
    面白く拝読させていただきました。

    1. ありがとうございます。今の時代にこういうのが増えるのも妙な気がしますが。今後も開発の話題のみならずこういうお話機会見つけて書いていこうかと思います。